• Top
  • Magazine
  • Cookieに頼らない顧客理解:ゼロパーティデータ入門と実践

2026.02.18NEW

  • コラム

Cookieに頼らない顧客理解:ゼロパーティデータ入門と実践

  • #パーソナライズ
  • #データ活用
  • #マーケティング
  • #CX向上
  • #UI・UX向上
Cookieに頼らない顧客理解:ゼロパーティデータ入門と実践
インプットポイント
  • Cookie規制時代を勝ち抜く「ゼロパーティデータ」の真の価値を体系的に理解できる
  • 顧客が「自ら教えたくなる」心理を突いた、価値交換の設計法を学べる
  • ゼロパーティデータの具体的な収集・活用メソッドがわかる

近年、デジタルマーケティングを取り巻く環境は目まぐるしく変化しています。GDPRやCCPAといった世界的なプライバシー保護規制の強化、そこへGoogleによるサードパーティCookie廃止への動きや、AppleのITP(Intelligent Tracking Prevention:『Safari』に組み込まれた、ユーザー追跡を制限するプライバシー保護機能)の影響が加わり、従来の「顧客を追跡し、行動を推測する」手法は困難になりました。

顧客が自らのデータの扱いにおいて安心感を得られるようになる一方で、企業側はかつてないデータの「枯渇」と「不透明化」という事態に直面しています。

この「Cookieレス」の潮流の中で注目されているのが「ゼロパーティデータ」、いわば顧客自身の「声」そのものです。

こうしたデータがなぜ今不可欠なのか、転じて顧客が「喜んで教えたくなる」体験をいかに設計すべきか。戦略と実践の両面から、本稿で紐解いていきます。

ゼロパーティデータの定義とビジネス価値

デジタルマーケティングの世界では、データの出自によって「パーティ」という分類がなされます。データの定義を整理すると、「推測型データ活用」との本質的な違いが明確になります。

データの分類:0~3のパーティデータ

私たちが日常のマーケティング活動で扱うデータは、大きく4つの層に分けられます。

  • ファーストパーティデータ:自社で直接収集するデータです。閲覧行動や購入履歴などの、いわば「過去の行動結果」です。
  • セカンドパーティデータ:他社(パートナー企業)が収集したデータです。パートナー企業にとってのファーストパーティデータとも言えます。
  • サードパーティデータ:データの収集・提供そのものを生業としている企業などが提供する一般的な顧客データです。広範囲なリーチには向きますが、昨今の規制により精度や利用のハードルが上がっています。

上記のデータに対し、ゼロパーティデータは、顧客が将来の意向や自身の好みを自ら明かすものです。例えば、「来月、キャンプに行く予定がある」「青色よりも赤色の服が好きだ」といった具体的な予定や嗜好、あるいは「半年以内に住宅購入を検討している」「環境負荷の低いブランドを応援したい」といったライフイベントや価値観に関する情報は、過去の購入履歴からは必ずしも予測できません。

この「顧客による意志の明示」こそが、ゼロパーティデータの最大の特徴であり、他のデータにはない強みです。

なぜ「自ら提供」してもらう必要があるのか

顧客に自発的にデータを提供してもらうことには、主に3つの大きなメリットがあります。

1つ目は「圧倒的な精度の高さ」です。行動履歴からアルゴリズムが弾き出した推測は、時に的外れなものになります。たまたまギフト用に買った商品の影響で、本人には興味のない広告が半年間も追跡してくる、といった経験は誰しもあるはずです。しかし、本人が「これが好きだ」と言った情報は100%正確であり、企業と顧客の間のコミュニケーションの「無駄」をなくすことができます。

2つ目は「法的・倫理的リスクの低減」です。顧客の明確な同意(オプトイン)のもとに収集されるため、プライバシー規制への対応が極めてクリアになります。

3つ目は「心理的距離の短縮」です。顧客が自分の情報を教えるという行為は、その企業に対して「自分を理解してほしい」という期待を寄せているサインです。この期待に誠実に応えることで、ブランドへの信頼と愛着(ロイヤリティ)は劇的に高まります。

ゼロパーティデータの戦略的位置づけ

デジタルトランスフォーメーション(DX)の本質は、テクノロジーを使って顧客体験(CX)を根本から変革することにあります。

その中心にあるのは常に「顧客理解」ですが、多くの企業が「データの量は膨大だが顧客が何を考えているのかわからない」という従来の課題に加え、昨今のCookie規制によって「そもそも必要なデータが十分に集まらない」という二重の困難に直面しています。

この課題を解決するための鍵となるのが、ゼロパーティデータです。

過去の断片的な行動(何をしたか)に、顧客自身の言葉による意志や文脈(何を求めているか・なぜ求めているか)を掛け合わせることで、表面的なレコメンドを超えた、顧客一人一人に本当の意味で寄り添う顧客対応が可能になります。

例えば、ある人が高級カメラを頻繁に閲覧していたとしましょう。

従来のデータ分析では「この人はカメラ愛好家である」と判断し、レンズや周辺機器を(短絡的に)レコメンドしてきました。

しかし、ここに「来月の友人の結婚式のために、今回だけ特別な一台を探している」というゼロパーティデータが加わるとどうでしょうか。取るべき顧客対応は一変します。その必要な期間に絞ったレンタルプランや、初心者向けガイドコンテンツをレコメンドする、といった形で、「顧客一人一人の」「その時々の文脈にフィットした」対応が取れるようになるのです。

このように、ゼロパーティデータをうまく取得・活用することで、膨大な行動ログや属性データを解析しても解消できなかった「行動と意図のズレ」という従来の課題がクリアになる上に、昨今のCookie規制の影響を受けず、それどころか、これまで以上に確実なデータを確保できるようになるというわけです。

顧客がデータを提供したくなる「価値交換」の設計

データ収集を単なる「計測タグの埋め込み」や「入力フォームの設置」と考えてはいけません。

顧客にとって、自分のプライベートな情報のやり取りは、一定の「コスト」を支払う行為です。したがって、企業側はそれに見合う、あるいはそれを上回る「価値」を提供しなければなりません。

顧客が情報を差し出す動機は、主に以下の5つの価値カテゴリーに集約されます。ゼロパーティデータを取得するには、自社のブランド特性や顧客層に合わせ、どの価値を提示すべきかを検討することが肝要です。

実用的価値(利便性・効率化)

顧客にとって最も直接的なメリットは、サービスを利用する上での「利便性」が向上することです。

「好みを登録すれば、数千点の商品から自分に最適なものだけが優先表示される」「アレルギー情報を登録することで、該当商品を自動的に除外したメニューが表示される」といった体験の最適化は、顧客の探す手間やリスクを軽減します。

また、肌質に応じたスキンケアのアドバイスなど、専門的な知見を得られることも大きな価値となります。

自分の情報を教えることで「使い勝手が良くなる」「自分にとって役立つ知恵が得られる」という実感をいかに持たせるかがポイントです。

経済的価値(報酬・インセンティブ)

ポイント、割引クーポン、限定セールへの先行招待、限定商品の購入権など、直接的な金銭的メリットです。

これらは最も分かりやすく、収集の初期段階でのフックとして非常に強力です。

ただし、インセンティブのみに依存した収集は「報酬がなければ答えない」という動機付けになりやすく、データの質が低下するリスクもあります。後述する他の価値と組み合わせることで、長期的な信頼関係に基づくデータ提供へと昇華させることが重要です。

体験的価値(エンターテインメント)

情報を提供すること自体を「楽しませる」設計です。診断コンテンツ、性格テスト、クイズ、あるいはゲーム形式のUIなどがこれに該当します。

「あなたにぴったりのファッションスタイル診断」のように、回答すること自体が娯楽であり、結果を知ること自体にワクワクする手法は、特にB2C領域で高い効果を発揮します。 ここでは、顧客は「企業にデータを教えている」という感覚よりも、「自分を知るためのツールを楽しんでいる」という感覚に近い状態で自己開示を行います。

感情的価値(特別感・自己表現)

情報を提供することで、「自分の存在がブランドに認められている」という特別感を得られる価値です。

VIP会員限定イベントへの招待などが典型例ですが、より深いレベルでは「自己表現」も含まります。

例えば、「サステナブルな素材を好む」といった自分の価値観やこだわりを企業に明かすことで、それに応じた「自分らしさ」を尊重した提案を受けること。顧客にとって、自分の信念を理解し、尊重してくれるブランドは、単なる購入先を超えた特別な存在となります。

意義的価値(社会貢献・共創)

「あなたの声が次世代の商品開発に活かされる」といった、社会的な存在意義(パーパス)への参加感です。

自分の提供したデータが「より良い製品」や「より良い未来」を作る一助になるという感覚は、特にエシカル志向の強い顧客や、ブランドに対して深い愛着を持つコミュニティにおいて強い動機付けとなります。 「企業と共に価値を創り上げる(共創)」という構図を提示することで、顧客は誇りを持って情報を開示してくれます。

ゼロパーティデータ取得のコツと手法

戦略としての「価値交換」が定義できたら、取得に向けた落とし込みです。

本章では、顧客に「不安」「面倒」といったハードルを感じさせず、円滑なコミュニケーションとデータ取得を行うためのコツと手法を解説します。

回答負荷を下げつつ「意味のある」データをつかむ設問設計

入力のハードルを下げ、自然なコミュニケーションの中で情報提供を促進するには、UI/UXの工夫が欠かせません。

ポイントは、当たり前ではありますが、自由記述を極力避け、選択式にして入力負荷を軽減することです。

ですが、ここで見落としてはならない真のポイントがあります。

やみくもに選択式の設問を並べても、問いと選択肢の設計を誤ると、単なる属性情報の収集になってしまい、真に顧客を理解するための情報が得られません。重要なのは、顧客のシチュエーションや潜在的な動機を先回りして言語化した「選択肢(シナリオ)」を提示することです。

例えば、フィットネス業界において、単に「何キロ痩せたいですか?」と聞くのではなく、「トレーニングを終えてシャワーを浴びたあと、自分の体にどのような自信を持ちたいですか?」という問いに対し、「どんな服でも着こなせる引き締まった自信」「一日中エネルギッシュに動ける活力への自信」といった、具体的なシーンと欲求を掛け合わせた選択肢を提示します。

これにより、顧客は自身の曖昧な理想を再確認(自己発見)でき、企業は数値目標を超えた「自己像の理想(文脈)」という極めて解像度の高い情報を構造化されたデータとして取得できるのです。

「答えさせない」アンケート:プログレッシブ・プロファイリング

一度に膨大な質問が並ぶフォームは、最大の離脱要因です。

そこで推奨されるのが「プログレッシブ・プロファイリング(段階的なプロフィール構築)」です。

これは、顧客との接触回数(セッション)に応じて、優先度の高い質問から少しずつ聞いていくアプローチです。

例えば、初回訪問では「興味のあるカテゴリー」だけを聞き、2回目の訪問で「好みの価格帯」を、購入後には「次回の利用予定」を聞く。MA(マーケティングオートメーション)ツールを活用し、「すでに知っている情報はスキップし、まだ持っていない情報だけを動的に出し分ける」ことで、顧客に負担を感じさせずにデータを育てていくことができます。

透明性の確保と「コントロール権」の付与

どんなに魅力的な報酬があっても、「データが裏でどう使われるかわからない」という不安があれば、顧客は手を止めます。

そのため、まずは「なぜその情報を聞くのか」「教えることで、具体的にどう体験が向上するのか」を分かりやすい言葉で明示し、透明性を確保する必要があります。

さらに、顧客に「コントロール権」を与えることも不可欠です。いつでも自分の登録した情報を確認でき、簡単に修正・削除できるという安心感。この「データの主導権は自分にある」という感覚が、自己開示の心理的ハードルを下げます。

信頼をデータに変え、データを体験に変える

私たちは今、データを「そっと取得して追跡する」時代から、顧客に「信頼して託される」時代への節目にいます。

企業が「顧客のことを理解したい」と思っているのと同様に、顧客もまた、「自分のことをもっと理解してほしい」というささやかな期待を持っています。

その期待を、最新のテクノロジーと誠実な設計によって具体的な体験へと形にしていくこと。

この積み重ねが、Cookie規制やプライバシー保護という時代の変化を、むしろ他社との差別化を生む追い風へと変えてくれるはずです。

まずは、顧客への小さな「問いかけ」から始めてみてはいかがでしょうか。

Profile

植野 峻彰Manager
慶應義塾大学卒業後、服飾関連の製造小売企業に入社し、マーケティングに従事。
その後化粧品関連の商社にて、マクロを活用した業務管理・効率化ツールを開発、DXプロジェクトに参画。
2021年から株式会社ファーストデジタルにジョイン。

Other Articles by the Author