新聞業界で進むデジタル化とデータ活用事例
- インプットポイント
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- 新聞業界においても、紙新聞だけではなく様々なデジタル化が進んでいる
- 自社内でのデータ活用だけではなく、対外に向けたデータの活用が盛んである
- 時には自社データと外部データをかけ合わせたデータ活用の検討も必要である
以前私が携わったプロジェクトで、新聞業界に関するリサーチ業務を担当した際、従来のビジネスモデルから新たな転換を迫られている新聞各社の動きが非常に興味深かったため、今回はその一部をご紹介する。
この記事を読んで、新聞業界に関する新たな知見や、昨今あらゆる業界において活発になっているデータ活用に関して、新たな示唆を与えることができれば幸いである。
紙新聞需要の低下と、ビジネスモデル改革の必要性
紙新聞の読者が減っている。日本新聞通信協会の調査によると、2010年の紙新聞発行部数が約4,932万部だったのに対して、2022年の総発行部数は約3,085万部と大きく落ち込んでいる。年毎に見ても、18年連続で発行部数は減少しており、今後も減衰の一途を辿ることが予測される。それに伴い、新聞に載せる広告枠数も減少している状態である。デジタルコンテンツの拡大や、既存読者の高齢化など様々要因は考えられるが、かつての新聞社経営の中核であった新聞発行と広告というビジネスモデルに黄色信号が灯っている現状である。
もちろん、新聞社は新聞発行だけを担っている会社ではなく、いわゆる全国5大紙と呼ばれる大きな企業(読売新聞社・朝日新聞社・毎日新聞社・日本経済新聞社・産経新聞社)においては、グループ会社として、テレビからレジャー関連や不動産、果ては野球団の運営まで様々な事業に携わっているのが事実である。とはいえ、新聞事業のみに注目した場合、先に述べた2つのビジネスモデルを変革、あるいはこれまで長い歴史をかけて培ってきた資産を活用して、新たなマネタイズを見出すことが、今後の新聞社においては急務となっている。
紙新聞からデジタル新聞へ、各社のデジタル方針
紙新聞事業が落ち込み、各社が一番に力を入れているのは、もちろんデジタル新聞である。2016年に産経新聞がデジタル新聞の配信を開始したことで、現在では主要全国紙5社全社が紙新聞とは別にデジタル新聞を配信している。他方で、各社がこぞってデジタル新聞のみに力を入れているわけではなく、会社によってその方針は少しずつ異なっている。今回は分かりやすく戦略を打ち出している3社を例に挙げる。
大手新聞社の中で、最も早くデジタル戦略に舵を切ったのは日本経済新聞社である。2010年に配信を開始した「日経電子版」は、2023年7月の時点で有料会員数87万人を獲得しており、デジタル新聞という市場のみで見ると、他社の一歩先を行く勢いである。(※読売、毎日、産経は有料の読者数が非公開)また、紙新聞よりも先に電子版でニュースを配信する「デジタルファースト戦略」を打ち出しており、従来の紙新聞事業から、デジタル新聞事業に完全に軸足を移していることが読み取れる。
- 日本経済新聞社:「デジタルファースト」
大手新聞社の中で、最も早くデジタル戦略に舵を切ったのは日本経済新聞社である。2010年に配信を開始した「日経電子版」は、2023年7月の時点で有料会員数87万人を獲得しており、デジタル新聞という市場のみで見ると、他社の一歩先を行く勢いである。(※読売、毎日、産経は有料の読者数が非公開)また、紙新聞よりも先に電子版でニュースを配信する「デジタルファースト戦略」を打ち出しており、従来の紙新聞事業から、デジタル新聞事業に完全に軸足を移していることが読み取れる。
- 読売新聞社:「新聞withデジタル」
デジタルでの新規読者数の獲得に尽力する日経新聞社に対照的であるのが、読売新聞社である。読売新聞社は「新聞withデジタル」の名のもとに、「読売新聞オンライン」などのデジタル新聞の配信も強化しながらも、紙新聞事業に軸足を据えた戦略を取っている。実際、世界的なインフレからくる原材料費・制作費の高騰などで各社が紙新聞の値上げを強いられる中、読売新聞のみが4,400円の価格を据え置いたままにすると宣言している。(2023年3月時点)また、2023年8月の段階では、読売新聞オンラインを単体で購読することは出来ず、紙新聞の購読が必須となっている。このように、読売新聞社はあくまでも従来の紙新聞の購読者のためのサービス提供に主眼をおいていることが分かる。
- 毎日新聞社:「紙もデジタルも」
毎日新聞社は、デジタル新聞に注力する日経新聞社や、紙新聞にこだわる読売新聞社とは違い、あくまで「紙もデジタルも」両方追求していく方針を取っている。また、同時に「コンテンツファースト」戦略を掲げており、2018年には、毎日新聞が生み出すコンテンツを集積して管理することのできるシステム「MIRAI」を導入し、1つの素材/情報を紙/デジタル/アーカイブなど多方面で利用可能な状態を作り出している。
以上のように、一概に新聞のデジタル化と言っても、新聞社によってその注力箇所が異なっていることが見て取れる。
新たなマネタイズへ向けて、新聞業界のデータ活用事情
先に述べた、紙新聞のデジタル化といういわゆる既存ビジネスモデルの変革以外にも、新たなマネタイズ源となるビジネスモデルを模索して、各社は動きを加速させている。その代表例がデータ活用である。そもそも、新聞社の保有するデータは膨大である。数百万人分の読者属性のデータや、デジタル版であればトラフィック履歴/記事の閲覧履歴などのデータが日々集まっている。これらのデータを上手く活用することができれば、新たなマネタイズ源となり得る。ここからは、データ活用に力を入れている各社の事例を紹介する。
- 日経新聞社:Atlas
日本経済新聞社は、自社サービスの顧客データ等を蓄積するCDPのAtlasを開発。Atlasを活用して、自社のデジタル戦略推進だけではなく、日経電子版等のデジタル資産を広告媒体として利用し、広告主へのマーケティングソリューションを提供している。
- 読売新聞社:yomiuri ONE
読売新聞社は、読売新聞グループとしてのCDPである「yomiuri ONE」を開発。yomiuri ONEは、読売新聞オンラインの読者が所有する「読売ID」の属性データに加えて、よみうりランド、読売旅行など読売新聞グループ会社の運営するサイトの閲覧属性や第三者情報の推定属性のデータを蓄積できる。新聞事業だけではなく、グループ間のシームレスな顧客体験の実現を目指してデータ活用を実施している。
また2022年7月には、ソニーグループであるSMNが保有するテレビ視聴データ「TVBridge」をかけ合わせた事業「YOMIURI X-SOLUTIONS(YxS)」を開始した。今後、新聞購読とテレビ視聴のデータをかけ合わせた、より精度の高いデータマーケティングを実施していくとしている。
- 朝日新聞社:A TANK DMP
朝日新聞社では、550万を超える朝日ID会員の属性と、各種媒体・サービスを通じたWEB行動情報、購買履歴・応募履歴などを蓄積したDMPである「A-TANK DMP」を開発。A-TANK DMPを活用して、データソリューションを提供する事業を開始している。
また、2022年11月には、ライブ・エンタメECプラットフォーム事業者である「ぴあ」と協業し、ぴあ朝日ネクストスコープ株式会社(PANX)を運営開始。両社のデータ基盤を活用して様々な媒体に対してワンストップの広告サービスを提供している。
まとめ
ここまで、新聞各社の紙新聞のデジタル化の動き、そして新たなデータ活用の取り組みを紹介してきた。新聞会社においても積極的に自社のデータ資産の活用は進んでおり、今後さらに活発化していくことは言うまでもない。
こういった自社内に留まらないデータ活用の取り組みは、何も新聞業界だけに限った話ではない。例えば三井住友カード株式会社では、顧客の膨大な購買データを活用した顧客分析ツール「Custella」を提供したり、JR東日本旅客では、Suicaに集積された顧客の人流データを活用した分析レポート「駅カルテ」の提供など、業種によって多様な活用方法が見られる。自社の持つデータをいかに自社内だけではなく、対外に向けて価値のあるものとして提供していくかが今後のデータ活用の局面として重要になってきていると言えるだろう。また、読売新聞社のTVデータとの提携や、朝日新聞社のエンタメデータとの提携など、自社データとシナジーの強いデータをかけ合わせより価値の高いデータを生み出すということも、データ活用の検討の際には視野に入れるべきではないだろうか。
Profile
井上 陽貴Senior Analyst
慶應義塾大学卒業後、楽天グループ株式会社に⼊社。モバイル事業において、モバイルコンサルタントとして複数店舗の分析・仮説⽴案・改善提案・施策実⾏を担当。その後、EC事業において新規店舗開拓の営業に従事。2023年から株式会社ファーストデジタルにジョイン。
- 井上 陽貴
- この記事は井上 陽貴が執筆・編集しました。
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