【事例紹介】CMSリプレイスプロジェクト
- インプットポイント
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- 導入するツールに必要な機能や、選定の方法が分かる。
- サイト運用を内製化するためには、何が必要なのか理解する。
- プロジェクト概要:コンテンツ最適化・CMSを見直して内製化、データを一元管理してプロジェクトを見える化、ベンダーロックフリーな仕組みと体制の構築、期間3ヶ月
主要先進国の中でも日本は中小零細企業の比率が飛び抜けて高いと言われており、それに伴いBtoB向けサイトの運用に携わる方の人口割合も相応に多いと考えられる。サイト運用に関わる課題においては、組織固有の問題が存在する一方、組織を問わず共通で見られる課題も多い。全ての課題を一度に解決しようとすれば、改修プロジェクトは長期化し、結果的に投入したコストに見合わない効果しか得られないケースも多く存在する。どうすれば高い費用対効果を望めるのだろうか?
「CMSツールリプレイスにおける要件定義支援」というオーダーのもとコンサルタントとして参画し、プロジェクトを牽引することとなったが、振り返ってみればそのプロジェクトの実態は「サイトコンテンツの最適化および業務フロー改善、それに付随する最適なツール導入ならびに要件定義支援」というものであった。日々の運用において生じる課題を解決するヒントとなればと考えている。
業務フローや管理方法が各部門でバラバラ、不具合が起きても、現場以外の関係者が把握できない状態になっていた。
プロジェクトが始まり、当初の目的であるCMSツールリプレイスの方向性を探るため、現在サイトの運用を担当し、実際に現行のCMSツールを利用している複数の部門の担当者にヒアリングを行った。
すると、同じツールを使い、同一のサイト上のページを制作・修正する作業であっても、部署ごとに異なる作業フローでの業務を行っていたことが分かった。
各部門が異なる作業フローでのコンテンツ更新を行い、かつ同時に複数部門による作業が並行で走ることが多く、他部門の作業予定とのコンフリクトやデータの巻き戻りを防ぐために、週次での定例会による状況の報告を余儀なくされていた。
また、開発ベンダーへの作業依頼には旧態依然なフォーマットによる依頼フローを強いられており、作業を依頼すること自体に手間が掛かる状況であった。
その依頼フォーマットには非常に大きな容量のファイルを伴い、修正の度に大容量のメールが大量に行き交うことになり、状況によってはメールサーバーがダウンする事態まで引き起こしていた。
最も大きな問題点は、誤字・脱字やページ表示の不具合、本来掲載期間が過ぎているはずのページが掲載され続けている、といった種々の問題に対処しようにも、運用担当者は自部門が掲載しているコンテンツ以外の状況は分からず、サイト全体を俯瞰して把握している人物が誰一人として存在しないということだった。
同様の問題が発生しているページの洗い出しや、誤って公開したデータを切り戻すための過去データの保管場所の確認など、何か問題が発生する度に、個別対応として膨大な工数を奪われ、関係者の疲弊につながっていた。
企業Webサイトは重要なマーケティングチャネルでもあり、その更新が遅れれば機会損失にもつながる。単なるCMSツールのリプレイスには留まらない、根の深い課題を解消する重要なプロジェクトと受け止めた。
ただCMSを導入するだけでは問題は解決しない。既存のコンテンツの洗い出しや作業フローの整理が必要。
まず、部門ごとの業務フローの洗い出しを行った。
事前にクライアントから業務フローの概要を頂いていたものの、省略されていた工程が存在し、また、同じ作業を他部門では別の作業フローで行われている場合もあることは、当初頂いていた業務フローには記載されていなかった。
部門によって作業の依頼方法や依頼先も異なっており、運用にかかわる全ての部門にヒアリングを行い、業務の全体像を可視化しなければ、課題を抽出しきることができないと判断した。
実際の業務フローの洗い出し作業においては、同担当者に対する複数回のヒアリングを実施した。
1回目のヒアリングの内容を整理し、図式化してはじめて気が付く事も多く、2回目、3回目とヒアリングを重ねることで、担当者が当然として受け入れているがために可視化されていなかった作業や課題を洗い出し、また他の部門で行われている作業フローとの差異は明確に分かるよう整理を行った。
こうして各部門へのヒアリングを進める中で、更新後のCMSに必須で求められる機能も徐々に見えてきつつあったが、一方でCMSのリプレイスだけでは問題は解決しないという思いは確信へと変わっていった。
改善の近道は、膨大な業務を見つめ直し、小さな改善を積み重ねること
そのようにして実際の業務をつぶさに洗い出した上で、まずは業務フローをシンプル化し、共通化することから着手した。
まずは掲載するコンテンツを
①レイアウトがほぼ固定であり、運用担当者によるページの内製が可能なパターン
②個別のデザイン要素が多くデザイン業者等に外注するパターン
の2パターンに絞った。
内製パターンでは、CMSのコンテンツ作成機能を利用し、予め必要なコンテンツ種に応じた複数のテンプレートを用意し、自由にパーツを組み合わせてページを作成できるようにした。テンプレートに予め用意したパーツは、当然利用しないという選択もできる。
ほぼデザインやレイアウトの変更が発生しないタイプのコンテンツとはいえ、その中でも最大限自由にレイアウトを調整できるようにした。
業者に制作を外注するパターンでは、ヘッダー・フッターやメニュー部分等の共通パーツのみを用意し、それ以外は白紙で自由にコーディングが可能なテンプレートを用意した。白紙のエリアには業者が制作したHTMLを埋め込み、画像などの関連ファイルもCMSツール上で管理することで、個別のデザイン要素が多いページもCMSにおいて一元管理できるようにした。
このようにして全てのページをCMS上で一元管理することが可能になり、業務フローをシンプル化・共通化しつつも、これまでのように目的に応じた柔軟なページレイアウトを表現できる目途がついた。
また過去の作業フローでは、サイトコンテンツや構成のバージョン管理は依頼メールやバックアップから作業内容を振り返り、変更内容を抽出するといった手動での管理を行っており、作業ミスや抜け漏れが多発していたが、今回のCMSのリプレイスと合わせてGitというバージョン管理のツールを導入し、CMSと連携させることで公開したファイルのバージョン管理も簡単にできる仕組みも新しい業務フロー内に組み込むことができた。
クライアントからは、「業務フロー図が見やすくて、問題点と改善点が明確に伝わった。」、「ドキュメント化のスピードが速く、進捗状況を細かく説明してくれるので、安心して見ていられた。」といった嬉しい言葉もいただけた。膨大な業務フローをすべて洗い出して整理し、再構築していく作業はかなり泥臭く、精神的にも厳しいものがあったが、現場の声を一つ一つ拾い上げ、小さいながらも改善を積み上げていくことで、結果として大きなバリューを出すことができ、クライアントにも大変喜んで頂けたことで報われたように感じている。
CMSに求められる機能面について
業務フローの洗い出しと再構築を経て、新たなCMSツールに顧客が求める要望も整理していくと、単なるHTMLの管理に留まらず、ロゴや文章中に差し込まれる画像といった画像ファイル類、あるいはホワイトペーパーのPDFファイルなど、多様なデータを管理できる汎用性の高いCMSツールが必要と判明したが、そのような機能を兼ね備えたCMSツールは高機能の見返りにイニシャル費用、ランニング費用ともに非常に高くつく製品がほとんどだった。
その中でも、今回は国産のとあるCMSパッケージを選択することで、要望の大半をリーズナブルに実現でき、やむを得ずカスタマイズが必要な機能においても費用を抑えて実現することができた。
CMSに限らないことではあるが、パッケージシステムであっても、他のクライアントが喜ぶような改修であれば、ベンダーも標準機能としての実装を前向きに検討してくれることが多い。自分たちの商品を磨くチャンスでもあるからだ。もちろん、開発ベンダーとの関係の良さもファーストデジタルの強みである。
なお、高機能かつ高価なCMSツールを導入したものの、見込んだほどの効果が生まれずむしろ運用負荷に苦しむケースを今まで何度も見てきた。
これは、既存のコンテンツとの整合性の担保や、そもそもの作業フローの改善を行うことなく、多機能なCMSならば既存業務の改善を行わずとも状況を改善できるだろう、という見通しの甘い見切り発車が原因となっていた。
ツールを売る側、紹介する側としても、多機能なCMSを導入してもらった方が、自社の売上や紹介料を上積みできるメリットがあることは容易に想像ができる。
しかし、実際のところ多機能であればあるほど、必要な設定や制約事項も多くなり、ただでさえ業務があふれている各部門に、更に余計な負荷をかけることにも繋がりかねない。
では可能な限り廉価かつ低機能なCMSツールを選択すべきか?と言えば、もちろんそうではない。特に営業やマーケティング部門は、広告効果の最大化のためにデザイン性の高いページを好む。一方で廉価なCMSは管理の簡素化のため、画一的なページレイアウトを強制する傾向がある。
費用のみにフォーカスして柔軟性の低いCMSを導入すれば、CMSでは作成できないページをCMSの管理外で公開することが横行しがちである。このような状況を放っておけば当然、会社としてのコンテンツの一元管理ができなくなるだけでなく、セキュリティ上の問題や、経営陣が預かり知らぬところでの炎上リスクなど、極めて大きなリスクを抱えることになる。
CMSなどのツール選定においては、表面的な機能の豊富さや費用で比較されがちである。あるいは、以前から懇意のベンダーが担いでいるパッケージなどが、政治的な思惑で選定されることも多い。しかしながら、ツールの導入だけで課題が解消することは稀であり、あくまで業務そのものの改善とセットでツールを検討しなければ意味がない、という点は肝に命じられたい。
編集後記
- マガジン編集部
- この記事はマガジン編集部が執筆・編集しました。
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