2022.12.12

【書評】ドラッカーが教えてくれる「マネジメントの本質」

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【書評】ドラッカーが教えてくれる「マネジメントの本質」

ビックテックと呼ばれるAmazonやGoogleの経営者の著書に名前が出てくるほど、現代においても大きな影響を与えるドラッカー。マネジメントを初めて体系化したドラッカーは多くの著作物を残しているが、難解と言われる膨大な情報から読者が必要なものを得ることは骨が折れる作業になる。原文を読んで挫折した人も少なくないのではないだろうか?(ちなみに私もその一人です。)

会社で働く人は必ずと言っていいほど上司と部下の関係を築き、マネジメントする側とされる側になる。マネジメントについて、少しでも改善することができるのであれば、古典的として扱われるがマネジメントの基本と言われる考えについて、知っておいて損はないと考える。

今回ご紹介する書籍(ドラッカーが教えてくれる「マネジメントの本質」)は、ドラッカーが残した著作物を読破せずとも、マネジメントの基本を知り、本質を垣間見ることができる。もしくは、ドラッカーのマネジメントに対する考えを理解する助けになる。組織や仕事、人とのコミュニケーションを改めて見直したいと思っている人に、読んでいただきたい。

出版社:日本経済新聞出版; New版 (2022/3/19)
発売日:2022/3/19
著者:國貞 克則

【著者紹介、書籍の特徴】ドラッカーから直接学んだ著者が、自身の経営コンサルタントとしての経験を活かし、原文を引用しながらマネジメントについて体系的にまとめている。

著者(國貞 克則)は大学を卒業して10年以上、神戸製鋼で働いたのち、経営を学ぶためアメリカにあるドラッカーMBA大学院に留学し、ドラッカーから直接教えを受けている。帰国後は経営やマネジメントのコンサルティングを生業とし、実際に多くの赤字企業を黒字化している点など、ドラッカーの教えを体現してきたと言えるのではないだろうか。

ドラッカーは「マネジメントとは課題(Tasks)、責任(Responsibilities)、実践(Practices)」であると明言しており、特に「実践」の重要性を説いている。企業にマネジメントを浸透させる活動をしながら、マネジメントを実践してきた著者は、ドラッカーを代弁する立場として、非常に適していると思われる。

本書の特徴は、著者自身が開催する研修などの様子やコンサルティング事例などを交えながら、ドラッカーのマネジメントについての考えを体系的に紹介しており、読者が理解しやすくなるよう工夫されている。著者は日本語に翻訳されていないドラッカーのインタビュー記事なども通読しており、ドラッカーの考えが網羅され、マネジメントに関わるドラッカーの思考の全体像を知ることができる構成になっており、忙しいビジネスマンであっても、数時間もあれば読めるのはありがたい。

また、重要なフレーズについては、原文の英語を引用して補足説明しているので、ドラッカーの考え方がダイレクトに伝わってくる。例えば、「顧客の創造」であれば、「create customersではなく、create a customerである。」のように、「1人の人間の幸せが人間全体の幸せにつながる。」という考えが、鮮明に伝わってくる。

【目次と要旨】気になった箇所だけでも原文を参照し、マネジメントについて理解を深めることもできる。

ドラッカーはマネジメントの目的は「人」が「成果」を上げることであると明言しており、「人」と「成果」をテーマとして、以下に各章ごとに要旨をまとめた。

時間に余裕がない人は、関心のある章だけを読むだけでも、マネジメントについて少なからず示唆が得られるのではないだろうか。気になった箇所について原文を参照し、理解を深めるような使い方もできる。原文の引用箇所に対しては、書籍名・訳者・出版社・章(ページにしてしまうと改訂された場合など該当箇所を参照できなくなる。)を、本文欄外に明記しているので、煩わしさを感じることなく原文が読めるように配慮されている。

目次と要旨

第1章 マネジメントの全体像と素敵なリーダーについて
マネジャーの役割は、「人」と「成果」をコントロールして、組織の目的・目標を達成する事である。
 
第2章 そもそもコミュニケーションとは何なのか
「人」は自分が期待していることしか聞かない。人の信念や価値観を変えることは簡単ではない。人に働きかけるために、コミュニケーションを効果的に行おうと思えば、あらかじめ相手の信念・価値観・欲求・目的などを知っておかなければ説得したり動かしたりすることはできない。
 
第3章 「人を活かす」ということ
具体的な「成果」を要求して、「成果」を出すことができなければ、強みとは言えない。最大の「成果」を出すには、強みを活かし、弱みを補うしか無い。強みは、持って生まれたもの、もしくはその人の幼少期に獲得したものである。
 
第4章 モチベーションと目標管理について
生産性を上げて「成果」を出すために、「人」に対して動機付けが必要となる。「人」は自分の仕事が組織の成功に大きな影響を与えると思う時のみ、最高の仕事への自らの責任を果たすことができる。
 
第5章 リーダーの役割とリーダーシップについて
個人の目標と、組織の目標を一致させて、「成果」を上げさせるために、環境を整えることがマネジャーの役割である。マネジメントの根本的な役割とは、「共通の目的、共通の価値観、適切な組織、訓練と自己啓発によって、「人」が共に「成果」を上げられるようにすることである。

【感想】ドラッカーと同様に観察する立場から一歩踏み込んで、ドラッカーの考えを実践しなければ、その考えに対しても納得ができないのかもしれない。

ドラッカーの文章が難解と言われる理由が、本書を読んで理解できたような気がする。ドラッカー以降に活躍した経営やマネジメントの研究者、批評家の中には、「ドラッカーのマネジメントについての考えは、因果関係が明確ではなく、根拠がないものだ。」といったような発言が少なからずみられるように、本書を読んで疑問に感じることは少なくない。原文を参照しても納得することができないことが確かにあった。

例えば、ドラッカーはマネジメントにおいて、人の強みを活かす事の重要性を語っているが、「その人の強みは、具体的な成果を要求して、実際に成果を出すことができなければ、強みとは言えない。そして、成果を求めて九ヶ月後に評価する必要がある。」と言い切っている。成果を要求してから九ヶ月後が評価する時期として適していることを、様々な企業・組織を観察した結果の平均値として、参考にしているように思う。

もともとドラッカーはナチスが台頭したドイツで生まれ、自らが発表した論文のことで、ナチスからの迫害から逃れるためにアメリカに移住している。そして、当時のアメリカにおいて新しい社会原理として登場した巨大企業のGM(ゼネラルモーターズ)から依頼を受け、第3者視点で経営や組織について報告するように依頼され「会社の概念」という著作を残すところが、マネジメント研究の出発点となっている。ある書物で人間環境に関心を持つ「社会生態学者」と自分のことを表現しているように、まずは観察する立場をとることが多いようだ。

ドラッカーが、マネジメントの「実践」が重要であると説いているように、読者がドラッカーと同様に観察する立場から一歩踏み込んで、ドラッカーの考えを実践しなければ、その考えに対しても納得ができないのかもしれない。余計に実践したいと考えるようになる。難解な言い回しと感じたフレーズも、実践を始めてから例えば9ヶ月後に読むと違った示唆を得られるのではないだろうか?と期待したくなってしまう。そう考えると、難解な著作物というよりも、仕事に躓いた時などに短いフレーズを読んでヒントを得るような、チャットボットのような読み方もできそうだと感じた。読む前の印象とは大きな違いだ。

ただ、注意しておきたいのは、ドラッカーは「多くの人は、何かを成し遂げたがる」、「挑戦する者には機会を与える事が原則である。挑戦しない者は放っておいて良い。本来いるべき場所に移動させる必要はあるが、余りやる気のない人に時間をかけるべきではない。」と発言している。特に多様性を容認する現代の組織においては、少し視点が偏っているようにも感じる。例えば、欲求5階層説を主張したマズローが「責任と自己実現は心身共に強いものでなければ耐えられない」と発言しているように、ドラッカーが理想としている人物像とは異なった存在をみとめている。別の視点で書かれた著作にも触れた方が良いと感じた。

まとめ

最後に、本書で最も印象に残った一文を紹介したい。

「なぜ著名な経営者がドラッカーを参考にするのか。21世紀における最大の課題の一つが知識労働者の生産性向上だからです。ドラッカーが知識労働者という言葉を創り出し、正面から課題に取り組んできた。」

20世紀は肉体労働者の効率を飛躍的に高めることに成功したが、特に現代の日本においては、知識労働者の生産性が低いことが大きな社会課題になっている。本書を読んで、労働生産性を高めることが、社会貢献にも繋がると感じるようになった。マネジメントを実践して、自分の仕事だけでなく、組織の生産性を高めることで、世の中を変えることができる。そんな期待を抱かせて、仕事に対するモチベーションを上げてくれる本書を読むことを是非ともお薦めしたい。

マガジン編集部
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この記事はマガジン編集部が執筆・編集しました。

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