2023.06.28

【書評】『ザ・モデル~マーケティング・インサイドセールス・営業・カスタマーサクセスの共業プロセス~』

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【書評】『ザ・モデル~マーケティング・インサイドセールス・営業・カスタマーサクセスの共業プロセス~』
インプットポイント
  • ザ・モデルとは、営業の分業体制とその管理方法のことである。
  • 単なる分業制度ではなく、組織として一つの目標を目指す共業が必要である。

ザ・モデルと聞くと、一度は耳にしたことがあるビジネスマンも多いのではないだろうか。ザ・モデルとは、セールスフォースが実際に実施している、営業の分業体制とその管理方法のことである。

この本の筆者の福田康隆さんは、オラクル・セールスフォース・マルケト日本法人の立ち上げといった様々な経験を通じて、BtoBの分業プロセス「THE MODEL(ザ・モデル)」を提唱した。この書評では、ザ・モデルの概要はもちろん、導入の際にマネジメント視点で注意すべき点も含めて説明していく。本書『ザ・モデル』内においては主に第2部・第3部にあたる部分である。

この書評を読むことで、BtoBビジネスの営業プロセス「ザ・モデル」の概要と、各プロセスに携わる担当部署の役割について理解することができる。ザ・モデルを既にご存じの方は復習として、初めてお聞きした方は今後の成長材料として、参考にしていただきたい内容となっている。

出版社:株式会社翔泳社
発売日:2019/1/30
著者:福田 康隆

『ザ・モデル』目次

第1部 アメリカで見た新しい営業のスタイル

    第1章 マーク・ベニオフとの出会い

    第2章 営業のプロセス管理

    第3章 「ザ・モデル」のその先へ

第2部 分業から共業へ

    第4章 2つの変化

    第5章 分業の副作用

    第6章 レベニューモデルの創造

第3部 プロセス

    第7章 マーケティング

    第8章 インサイドセールス

    第9章 営業(フィールドセールス)

    第10章 カスタマーサクセス

第4部 3つの基本戦略

    第11章 市場戦略

    第12章 リソースマネジメント

    第13章 パフォーマンス・マネジメント

第5部 人材・組織・リーダーシップ

    第14章 人材と組織

    第15章 リーダーシップ

【本書評で登場する基本的な用語の説明】

・SFA

「営業支援システム」と呼ばれる営業活動を管理するツールの総称。基本的な機能としては、営業の活動記録、日報管理、コンタクト情報の管理、商談情報の管理などが挙げられる。本書では、「営業が商談管理を行うツール」をSFAと位置づけている。

・リード

「見込客」のこと。本書では、展示会で獲得した名刺情報や、Web Siteの入力フォームから獲得したコンタクト情報など、自社が保有する潜在顧客のコンタクト情報すべてをリードと表現している。

・クオリフィケーション

営業においては、「Marketing Qualified Lead」「Sales Qualified Lead」のように、マーケティングからインサイドセールスへ、インサイドセールスから営業へリードや商談をパスするときに、それぞれの部門間で事前に合意した基準を満たしているかを確認することを指す。

2つの変化

「ザ・モデル」とは、BtoB企業の営業プロセスをいくつかの部門に分け、分業制度にしたモデルのことである。具体的には、「マーケティング部門」「インサイドセールス部門」「営業部門」「カスタマーサクセス部門」である。ただ、「ザ・モデル」を単なる分業によるオペレーションと理解すると、実行段階で行き詰まる可能性が高い。理由は、顧客と企業の2つの変化と1つの課題である。

1.顧客の購買検討プロセスの変化

1つ目の変化は、顧客の購買検討プロセスの変化である。インターネットの普及によって、顧客は購買のプロセスを自分のペースで進めるようになった。優れた顧客体験は、価格や商品そのものよりも重要な意思決定の基準になったのである。そのため、従来のリードに直接接点を持つ営業方法だけではなく、その前に顧客から選ばれる存在になるために、マーケティングオートメーションの強化が必須となった。

2.ビジネスの成長がもたらす変化

2つ目の変化は、ビジネスの成長がもたらす変化である。初期段階で獲得できる見込み客は、アーリーアダプター層のため比較的商談に繋がりやすいが、事業の成長期には、商談に繋がりにくい層にどれだけ多くリーチできるかが鍵になる。つまり、量と引き換えにある程度は質を犠牲にしなければならなくなる。一方で、事業の成長に伴い、新規のリード(見込客)は段々と減っていく傾向にある。そのため、事業を成長させていくためには、一度は失注してしまったリードや商談、顧客になったがアップセルの機会を失っている既存顧客を、いかに検討プロセスに「リサイクル」するかが重要である。

分業の副作用

先に述べた2つの変化に加えて、「ザ・モデル」を単なる分業制度と捉えることに関連して、1つの課題が存在する。それは、分業の副作用である。

分業のメリットは、それぞれの専門性が高まって効率が上がることと、どこに課題があるかが可視化されるので対策が打ちやすいことにある。一方で、部門間の対立が負のループを生み出すこともある。

各部門に業績評価の指標を設定すると、チームメンバーはその目標値を達成することを優先する。マーケティングはノルマ達成のために新規リードの獲得数を重視するため、見込の低そうなリードを大量に確保できる施策に走りがちになる。インサイドセールスは商談化しやすそうなリードから優先的にアタックし、見込の低いリードはアタック時期が遅くなり、商談化率が次第に下がっていく。営業は、商談数が減ってくると、獲得率の低い商談も実施せざるを得ないようになる。すると、本来集中すべき顧客へのフォローや提案の質が低下し、営業の生産性が下がる。その結果、数字が伸び悩み、新たなリードの獲得がマーケティングに迫られるのである。これが分業によって引き起こされる負のループである。

以上のような2つの変化と1つの課題を踏まえると、このような事態を避けるためには、組織に「分業」ではなく「共業」の意識を持たせることが求められる。「マーケティング→インサイドセールス→営業→カスタマーサクセス」という1つのファネルの流れではなく、「逆の流れ」を作ることが必要である。カスタマーサクセスはマーケティングや営業にフィードバック、営業は商談時の内容をインサイドセールスに対してフィードバック、インサイドセールスはマーケティングに顧客の生の声を伝えるなど、双方向の流れが実現したときに、売上向上という共通目標に対して、共同作業をする感覚が芽生えるだろう。では、具体的にどのようなモデルが理想的なのかを説明していく。

レベニューモデル

ザ・モデルのレベニューモデル

上記が、ザ・モデルのレベニューモデルである。

まず、マーケティングがターゲット市場に「認知拡大」するところから始まり、「リード獲得」ステージに移る。ここで、「リード育成」と「育成対象外」のステージに分かれる。その後、インサイドセールスによって「有望リード」へと育った顧客は、営業に引き渡される。営業は「アポイント・訪問」を行い、「商談」を実施する。「オンボーディング」に至った顧客は、カスタマーサクセスの取組によって、「アップセル」「クロスセル」に繋がる。これがザ・モデルの分業体制である。重要なのは、一度失注してしまった顧客を「リサイクル」ステージに入れることである。新規リード以外にも再度アプローチをかけることで、雪だるま式に顧客が増えていく、循環型のモデルとなっている。ここからは、各ステージの担当の役割について、詳細に記載していく。

プロセス

マーケティング

マーケティング部門では、主に認知拡大とリードの獲得を担当する。マーケティングは近年最も変化しており、企業側は自社のコンテンツを整理し、どのような検討ステージの見込客がそれを必要としているのかを考慮して、パーソナライズした情報を提供する仕組みを用意する必要がある。大事なのは、見込客が現在どのステージにいるのかを客観的に把握できる指標を持ち、顧客を確実に次のステージに進めることである。また、一度失注してしまいリサイクルステージに入った顧客を、再度育成ステージに載せるのも、マーケティング部門の役割の一つである。

<マネジメント視点でのポイント>

  • 各階層で見るべき指標を整理する。

マーケティングには多くの指標が存在するが、経営層まではその指標が伝わらないことが多い。そのため、経営層・各部門長クラス・担当者のそれぞれが、どの指標を見るべきかを整理することが重要である。

インサイドセールス

インサイドセールス部門の役割は、マーケティング部門が獲得したリード(見込客)にアプローチし、購買意欲を高めて営業に回すことである。主に電話やメールなどの手法が挙げられる。インサイドセールスでは、どれだけ業務効率をあげられるかが重要になる。そのため、MAやSFAなどのツールを活用しながら業務を進める必要がある。

<マネジメント視点でのポイント>

  • 実際のヘッドカウントと、入社時期を考慮したキャパシティとしての数字は分けて考える。

頭数としては存在するが、実稼働としてはまだ十分ではない、という新入社員の存在を考慮しないと、頭数は増えているのに実キャパシティは減っているということになりかねない。

  • 営業にパスしたリードの商談化率を観測する。

この数字は、インサイドセールスのクオリフィケーションの質と連動している。高すぎると、確実なものに絞り込みすぎて商談機会を逃している、低すぎると営業が訪問の無駄打ちをしている、という判断ができる。

  • 細かな数値をトレンドとして抑えつつ、マネジメント自らが行動を観察して評価するように努める。

インサイドセールスの活動は殆どが数値化できる一方で、かなりの部分が主観に依存する。(例:アポイント件数が多くても、「会うだけでもお願いします」と確度の低い取り方をしている可能性がある。)そのため、評価の際には、あくまで組織全体を俯瞰して、改善点を探す目的として数字を捉える必要がある。

営業(フィールドセールス)

営業部門では、アポイント/訪問から、商談の実施、実際の契約までを担う。商談ステージにおいては、さらに細分化してフェーズ管理を実施する必要がある。

フェーズ例

フェーズ1:リード以上商談未満

フェーズ2:ビジネス課題の認識

フェーズ3:評価と選定

フェーズ4:最終交渉と意思決定

フェーズ5:稟議決裁プロセス

営業部門では、上記例のようなフェーズに分け、顧客を次のフェーズに進められるようにアプローチしていくことが求められる。

<マネジメント視点でのポイント>

  • マネジメントが見るべき商談の7項目

「受注予定日」「金額」「フェーズ」「競合」「商談日数・フェーズ滞留日数」「ネクストステップ」

以上の7項目に特に注視する。

  • 高精度なフォーキャストを組み立てる3つの要素

「各営業の積み上げ」「過去の受注率などの傾向値」「直感」

以上3つの要素から、設定した目標をボトムアップで積み上げた数字で埋めていく作業を実施する。

  • 営業一人ひとりの特性を知る。

営業には一人ひとり特性があり、全て標準化してフォーキャストを予測しようとすると無理がある。マネジメントが一人ひとりの性格やクセを理解して、アジャストしていくことが重要である。

カスタマーサクセス

カスタマーサクセス部門の役割は、既存顧客のサポートと、アップセル/クロスセルの促進である。ここでも、顧客の成功という「ステージ」を定義し、今顧客がどのステージにいるかを計測し、次にどのステージに導いていくかを考える必要がある。

ステージ設計例

ステージ1:オンボーディング

ステージ2:導入支援

ステージ3:活用促進

ステージ4:契約更新フォロー

ステージ5:アップセル/クロスセル

ステージ6:テクニカルサポート

上記例のような、顧客を一体となってサポートしていくことの総称が、カスタマーサクセスである。

<マネジメント視点でのポイント>

  • 業績評価に、契約更新率の達成度やアップセル/クロスセルを入れるときは注意する。

解約には様々な理由があるため、一概にカスタマーサクセスが要因とは言い難い。同様に、アップセル/クロスセルに関しても、本当にカスタマーサクセスが貢献したのか、営業が貢献したのかを判断することは難しい。部門をまたがる指標については、各部門がどのような行動を起こすかについて、十分に注意を払って設計する必要がある。

まとめ

いかがだっただろうか。以上が、「ザ・モデル」の概要である。

筆者は本書を読み、「ザ・モデル」とは、ただ単純に分業体制を実施することではなく、各部門間が共業しながら、1つの目標に向かって組織全体で動いていくことであると理解した。もちろん、この「ザ・モデル」をそのまま取り入れればそれで良いというわけではなく、このモデルをベースにして、その組織に合った形に都度改善していくのが理想的ではないだろうか。また、組織の特徴に即したSFAやCDPなどのツールを取り入れて活用していくことも非常に重要である。

本書では、このモデルの説明の後、実際にこのモデルを成功させるためには組織としてどのような戦略が必要か、について詳しく解説している。これから組織を大きくしていこうと目論んでいる企業の経営者や、マネジメント層の方々には是非お読みいただきたい内容となっている。

Profile

井上 陽貴Senior Analyst
慶應義塾大学卒業後、楽天グループ株式会社に⼊社。モバイル事業において、モバイルコンサルタントとして複数店舗の分析・仮説⽴案・改善提案・施策実⾏を担当。その後、EC事業において新規店舗開拓の営業に従事。2023年から株式会社ファーストデジタルにジョイン。
井上 陽貴
井上 陽貴
この記事は井上 陽貴が執筆・編集しました。

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