2024.09.25NEW

【書評】小売り広告の新市場 リテールメディア

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【書評】小売り広告の新市場 リテールメディア
インプットポイント
  • リテールメディアのビジネスモデルを理解できる
  • リテールメディアの開発事例、広告主の活用事例を把握できる
  • 日本が実施すべきリテールメディアの方針を理解できる
  • リテールメディア成功後の取り組み可能性を知ることができる

小売りに革命が起きようとしている。その中心となるのが、デジタル時代に登場した小売り発の新広告サービス「リテールメディア」だ。その市場は、2028年にテレビ広告市場を超えると予測されている。

セブン、イオン、マツキヨ、ヤマダデンキ、楽天グループ、博報堂、三菱食品、Amazon、Googleなど、小売り、大手広告代理店、ビッグテック企業から食品卸まで、様々なプレーヤーがこの新市場に注目し、相次いで事業を開始している。

本書はリテールメディアの定義、日米の市場の違い、国内の事例、広告主の活用例、開発支援市場まで、網羅的に徹底解説した日本版リテールメディアの決定版として、あらゆるビジネスパーソンにとって必読の一冊となっている。

出版社:日経BP
発売日:2023/11/17
著者:望月洋志、中村勇介

【目次と要旨】リテールメディアは小売業の新広告サービスであり、小売り、メーカー、テクノロジー企業や広告会社が力を合わせて市場を切り開いていく必要がある。

リテールメディアは「リテール=小売り」と「メディア=媒体」を組み合わせた造語であり、端的に言えば、小売り発の新広告サービスである。既存のネット広告の技術ではプライバシーポリシー保護の規制により、広告配信の精度や効果の低下が懸念されている。これに対し、小売業がこれまで自社のマーケティングでしか活用してこなかった購買データを広告配信用に用いたリテールメディアは、規制に左右されづらい広告配信の仕組みと広告効果の明確化が可能となる。

また、リテールメディアを効果的に活用するためには、小売業側でのシステム開発・運用の課題、メーカー側でのデジタルマーケティングや広告運用の知見を要する課題、小売業の市場シェアのばらつきなど、日本独自の文化や課題に応じた方針で市場を拡大していく必要がある。

第1章 「リテールメディア」の正体――米国で急成長する小売り発の新広告市場

リテールメディアは、購買データとの連係によって「広告を見た・クリックした」ところまでではなく、「対象の商品を購入した」ことまで一気通貫で分析可能になったことと、実店舗でポイントカードの登録をする場合が多いため、氏名・住所・電話番号などの顧客データが登録されており、リテールメディアの礎はできていることが従来の広告メディアと比べて画期的な点となる。なお、顧客データを活用する場合、ポイントカードの会員データベースとWeb、アプリ、ECサイトのショッピングカートなどと連係する必要がある。また、店舗内でアプローチすることで「お買い物モード」の顧客に対して広告配信が可能となり、購買に最も近いタイミングで消費者に広告配信することで、購買確率が高いことも大きな利点となる。

第2章 日米の市場の違いを徹底比較――ウォルマートやAmazonの広告事業はなぜ急伸

アメリカ市場では、Amazonやウォルマートなどリテールメディア市場が急速に拡大しており(23年に451億5000万ドル、27年までには1061億2000万ドルまで拡大予想)、日本においてもリテールメディア市場は急速に拡大しているが(21年に90億円、26年に805億円まで拡大予想)、日米ではリテールメディア市場において、前提条件が大きく異なる。

  1. 小売り企業の規模
    日本の小売企業はローカルチェーンが強い傾向にあり、売上規模が小さく各社が抱える顧客数が限定的である。
  2. 小売り企業の市場占有率
    日本では、総合スーパー上位4社が占めるシェアは63.3%、スーパーマーケットでは上位7社で21.1%となっており、米国ほど寡占状態ではなく、各地域に根付いたスーパーがひしめき合っている状態である。このため、メーカーは複数の小売り企業に数多く取り扱ってもらう必要があり、結果的にメーカーの広告予算が分配され、広告単価を上げにくい状況になっている。
  3. 購買に直結する環境か否か
    米国では、ウォルマートなど実店舗型小売りのリテールメディアでも主戦場はオンラインストアであり、顧客がより買い物しやすい体験が実現されており、受け取る場所を問わずにオンラインでの購買行動が消費者に根付いているが、日本の小売りはECサイトが発達しておらず、リテールメディアの効果が及ぶ範囲が狭い傾向にある。
  4. テクノロジーの理解と投資
    リテールメディアは広告技術の開発やデータ活用が重要となるため、テクノロジーへの投資が必須となるため、米国ではIT企業の買収等を行いシステム内製化しているが、日本では企業規模の小さい小売業が多く、ITに多額を投資することは難しいため、リテールテック企業との協業を視野に開発していく必要がある。
  5. 小売業界の人材の流動性
    日本の小売り企業の中途採用は、小売業界の経験者が多く、IT会社、広告代理店、メディア経験者が少ない。一方、リテールメディアは広告事業であって小売り事業でないため、これまでの人材での開発が難しく、異なる分野の経験者を組織内に取り込む必要があるが、人事制度やカルチャーの変革など、採用する前段の取り組みから課題が多い現状である。
  6. インターネット広告の広告単価
    Google アドセンスの平均CPM単価は、米国は0.68ドル、日本は0.28ドルで、約2.5倍の差があり、日本は他国と比べてWeb広告単価が低い傾向にある。日本はまず「リテールメディアの『効果』とはなにか」という整理とともに、広告単価の議論をする必要がある。
  7. 広告主であるメーカーの組織構造
    米国では、ブランドマネジメント部門の担当者がマーケティング全体を統括しており、リテールメディアも管轄しているが、日本ではメーカーのリテールメディアを管轄する部門が分断されている傾向にある。リテールメディアは小売企業が展開しているため、「メディア」でも管轄は営業部門というケースが多い。そのため、メーカーリテールメディアに積極的に取り組もうとしても「予算」と「人的リソース」の課題が発生する。

第3章 日本でも広がるリテールメディア――イオン、セブンの参入で市場拡大の兆し

セブン-イレブン・ジャパンでは、会員ごとに固有のIDを割り振り、そのIDに利用履歴や購買データを蓄積できる仕組みを持つ「セブン-イレブンアプリ」をID-POSの役割として活用し、自社の販促施策の成功が開発のきっかけになり、リテールメディアを立ち上げた。セブン-イレブン・ジャパンのリテールメディア推進部が画期的な点は、設立時に商品本部の傘下に設置したことである。商品本部には商品開発部門と販促支援部門(マーケティング部門)があり、商品開発や品ぞろえ、販促キャンペーンの企画などをメーカーに立案可能となっている。他、イトーヨーカドーでは専門家を採用しEC広告事業を開発するなど、各社でリテールメディアの市場拡大がみられる。

第4章 加速するサイネージ型リテールメディア――先行するデジタルサイネージ活用では成功例も登場

AIカメラによる顧客店内行動の理解深化によって、各店舗の来店数や性別、推定年齢、どの売り場でどれだけ滞在し、どの商品を手に取ったかなど、独自の店内行動データとID-POSの購買情報との相関を分析することで、より効果の高い広告配信が可能となっている。また、サイネージ広告は店舗内での購買意識を変える有力な施策となり、「ついで買い」「価格軸ではない購買訴求」「機能性商品の購買促進」などの場面で効果的な結果を出している。

第5章 先行くECプラットフォームの広告事業――進化するAmazon、楽天の広告サービス

アマゾンの広告サービス「Amazon広告」は、EC事業者ならではの独自性の強いデータを用いた広告サービスの展開で、日本企業もAmazonが多くの企業にとって重要な販売チャネルとして認識している。電通デジタルはAmazon専門チームを設置し、Amazon広告支援への人的リソースを加速。AmazonではECサイトがそのまま広告配信面となること、広告在庫(利用者のアクセス数)が豊富であること、多種多様・莫大な購買データを保有していること、広告配信アルゴリズムによる自動最適化がされていることなどが強みとして挙げられる。

第6章 先進広告主のリテールメディア活用――カゴメ、日清オイリオが広告活用で成果

日本でも積極的にリテールメディアを活用するメーカーが現れている。日清オイリオグループでは、リテールメディアを通じて、卵を使用しないマヨネーズである「マヨドレ」の広告配信を実施した。マヨドレは主力商品と比べ対象顧客層は狭いものの、便益を感じる層にはぴったりの商品である。どうすれば刺さる人にちゃんと商品の魅力を伝えられるかが課題であったが、イラストを交えた記事広告を配信し、広告接触の有無で商品の購買率に15倍という驚異的な差が出た。

第7章 相次ぐ参入で開発支援市場も活性化――広告代理店や食品卸が支援事業を開始

小売企業のリテールメディア参入の動向が活発化する中、開発支援事業も活発化している。専業の広告技術開発会社だけでなく、グーグルといったIT企業、大手広告代理店、食品卸までもが相次ぎ支援事業に参画。博報堂ではグループ横断型のリテールメディア支援プロジェクト「リテールメディアONE」を発足させ、リテールメディア特化の総合窓口として、小売企業、広告主であるメーカー双方にサービスを提供。複数の小売事業者、デジタル広告、アプリ、サイネージなどの広告配信面を束ね、一括して出稿できるようにし、リテールメディアが細分化された日本の課題解消を目指す。

第8章 リテールメディアに見る小売りの未来――小売りに起こる5つの大きな変化

  • 顧客理解の大幅な変化
    顧客のオフライン、オンラインの購買データや行動データ収集・分析することで顧客理解の解像度が高まる。また、顧客と店頭以外でも接点を持てるようになり、新たな関係性を築くことができ、より柔軟な・新しい施策を具現化できるようになる。
  • 小売りとメーカーとの関係が変わる
    これまでの小売りとメーカーは商品を販売するだけの取引であったが、「パートナー」へと変わっていく。メーカーと一緒にコンテンツを制作し、協力してマーケティングを行うことで、小売りはブランドマーケティングの理解が深まり、メーカーのブランドも強くなる。
  • 小売りの事業構造が大きく変化する
    広告事業が小売企業のポートフォリオの1つとなる。広告事業で得た収益を小売事業に投資し、より積極的な価格戦略や物流への投資が可能となり、これらの活動によってリテールメディアの価値が高まるというエコシステムを構築可能となる。
  • 広告事業拡大で小売業の組織も変化
    広告配信システム開発、メディア開発、データ分析等の開発組織の強化、クリエイティブ人材の組み込み、広告主獲得のための営業部門など、小売りとは縁遠かったスキルを持つ人材が必要となる。
  • 小売企業の事業の多角化が加速
    広告事業で成功し開発体制が強化された企業は、システム、金融、物流領域の強化など新たな事業開発への投資も可能になる。さらにロボティクス、フードテックなど関連する領域でのサービス開発も検討の余地が出る。小売り機能の自社の強みをプラットフォームとして外部企業にサービス(RaaS)を提供する動きも始まっている。

【感想】リテールメディアは小売企業の新ビジネスであると同時に、顧客コミュニケーションの変革である

「リテールメディア」は小売りにとって、とても大きな変革の機会であると思う。日本の小売業界としての前提条件を深く理解し、対策することで、日本での取り組みが進むことだろう。さらに、メーカーと小売りが協力することで、リテールメディアは商品・ブランドの価値を減衰することなく、消費者に直接届けることもできる。

リテールメディアの取り組みの本質は広告ではなく、顧客コミュニケーションが変化し、取引先との関係が変化することにあると思う。

今後、リテールメディア事業がさらに加速していくと思われるが、広告が単なるPRではなく、顧客が本当に必要としているモノや情報を商品の良さも含めて認知できることは、消費者として、とても明るい未来であると感じる。

マガジン編集部
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この記事はマガジン編集部が執筆・編集しました。

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