【書評】カスタマーサクセスとは何か
「カスタマーサクセス」という言葉を聞いたことがないという人も、今はもう少ないのではないでしょうか。その一方で、カスタマーサクセスという概念について十分に理解している人もまた少ないと考えています。
今回紹介する書籍は、カスタマーサクセスの定義や、それを実現するためのモデルだけにとどまらず、BtoB、BtoCの具体的なプロダクト/サービスをもとにカスタマーサクセスに関する理解度を深めることができる内容となっています。
そのため、業種・職種に関わらず、すべてのビジネス人材にお勧めします。カスタマーサクセスという概念を、改めて理解し既存の業務に活用することで、より顧客に対する解像度を高めたプロダクト/サービスの提供やソリューション開発にも役立つと考えています。
カスタマーサクセスとは何か
日本企業にこそ必要な「これからの顧客との付き合い方」はじめに
カスタマーサクセスとは何か 日本企業にこそ必要な「これからの顧客との付き合い方」目次より一部を引用
プロローグ:ウォルマートの決断(前編)
第一章:日本にこそカスタマーサクセスが必要な理由
1-1:カスタマーを虜にするリテンションモデル
1-2:リテンションモデルへのシフトが不可避な理由
1-3:リテンションモデルが日本に意味するところ
第二章:カスタマーサクセスとはいったい何か
2-1:買ってくれたお客様へ成功を届けるカスタマーサクセス
2-2:リテンションモデルとカスタマーサクセスの表裏一体な関係
2-3:カスタマーサクセスが日本に意味するところ
第三章:日本におけるカスタマーサクセスの現状
3-1:世界から見た日本
3-2:日本産カスタマーサクセスの事例
エピローグ:ウォルマートの決断(後編)
付録:キャリアとしてのカスタマーサクセス
1.カスタマーサクセス人材とは
2.カスタマーサクセス人材が活躍する仕事(キャリア)とは?
3.キャリアとしてのカスタマーサクセスの魅力
カスタマーサクセスとは何か
カスタマーサクセスとは「顧客に成功や成果を届けることを追求し続けるプロダクト/サービスのこと」です。
顧客にとっての成功が何を指すかといった点はプロダクトやサービスによって千差万別ですが、音楽を聴くことや、A地点からB地点への移動等といったことも一つの成功や成果の例として挙げられます。
カスタマーサクセスに重要なリテンションモデルとは
カスタマーサクセスは継続的に顧客に成功/成果を届けるという点において、リテンションモデルと深い関係にあります。
リテンションモデルを備えたプロダクト/サービスとは「カスタマーが使い続けたくなるサービス」のことであり、下記4つの特徴を備えています。
- カスタマー(=顧客)が所有(=モノ)ではなく成果(=サービス)に対して費用を支払う
- サービスを最小限のコストで利用可能、いつでも利用を停止できる
- サービスは常に最新/最適な状態に更新され続ける
- カスタマーが納得して個人データを企業に提供する
一例としては、音楽ストリーミングサービスを挙げると下記の通りです。
- “曲の所有”ではなく、”多種多様なジャンル・アーティストの曲が聴ける”というサービスに対価を支払っている
- “無料または、数百円/月から利用”でき、”すぐにサービスを辞められる”
- “音楽の種類や曲は日々増加”していき、”ラジオやポッドキャスト、音楽関連の情報収集までも行えるように進化”していく
- 曲やアーティストのレコメンド機能等、”サービスが自身に最適化されることを期待して、カスタマーが自主的に視聴情報等のデータを提供”する
リテンションモデルと従来型購買モデルの違い
カスタマーサクセスを実現するための購買モデルをリテンションモデル、従来の買い切り型の購買モデルを従来型購買モデルとすると、両者には下記の違いがあります。
1.ライフタイムバリュー最大化vs.ワンタイムバリュー最大化
リテンションモデルでは顧客に成功を届け続けるために、長期的な関係の継続と深い顧客理解を必要とします。
顧客に成功を届けるには、データを統合する基盤と十二分な分析体制といったリソースを確保し、集中的に投下する必要があります。
リソースには限りがあるため、時には成功を届けることが難しい(=ターゲット層ではない)ユーザーに対しては十分なサポートを提供しないことを選択することもあります。
従来型購買モデルでは、販売規模の大きさを含めたワンタイムバリューを追求する形となります。
顧客にモノを所有してもらう瞬間までは十分な関係を築くものの、購入以降の関係は希薄化していく傾向にあります。 リソースも必然的に購買までのフェーズに集中して投下される形となります。
2.購買してからが勝負vs.購買してもらうまでが勝負
リテンションモデルでは顧客に成功を届けるために、オンボーディングやサポート等購入してからの支援が手厚い傾向です。
顧客にサービスを購買/導入してもらうだけではなく、顧客が自立してサービスを使い続ける(=成功し続ける)ことや、顧客の課題解決に向き合い続けるといった活動がリテンションモデルひいてはカスタマーサクセスの焦点となっているからです。
従来型購買モデルでは、購買してもらうまでが勝負となっています。
その為、いかに効率的に製品/サービスの認知を獲得するか、顧客に製品/サービスを届けるかといったことが焦点となります。
3.手放せないプロダクトvs.所有したいプロダクト
リテンションモデルは、プロダクトに始まりプロダクトに終わります。リテンションモデルにおけるプロダクトの提供価値は「(プロダクトの機能+成功ブリッジ)×体験」で算出することができます。
プロダクトが持つ機能だけでは、成功を届けることは出来ず、機能と顧客の成功の間には溝がある為、それを埋めるための支援(=成功ブリッジ)が提供価値の一部となります。
そして、プロダクト自体の体験を最大化する為に、顧客にかかる負荷は最小限となるように改善を重ねていきます。
これらの取り組みを行うことで、リテンションモデルは顧客にとって手放せないプロダクトとしての地位を確立することが出来ます。
一方、従来型購買モデルでは、購買を重視しているため、顧客の購買欲や所有欲を高めることがプロダクトの目的となります。その為には品質とコストのバランスやデザイン、ブランド、希少性といったプロダクトそのものの価値を追求することが重要となります。
4.カスタマーの未来重視vs.プロダクトの実績重視
リテンションモデルでは、カスタマーの行動を先回りするだけでなく、望ましい結果へ誘導する場合もあります。
顧客が自主的に提供している膨大なデータを統合・分析することで顧客行動を整理し、あらゆる行動の予兆モデルや行動シナリオを製作することで、顧客に対して①予測して仕向ける対応②先回り対応③受け身対応といった種類の支援を実施することが出来ます。
従来型購買モデルでは、購買までのマーケティング実績等の限られたデータしか保有していない為、リテンションモデルの①や②といった活動をすべて行うことは困難です。
5.スケーラビリティ構築力vs.ヒット商品創出力
リテンションモデルの成長には事業、組織ともに「再現性」×「伸長性」といったスケーラビリティを備えることが必要です。近年は技術の進化も早く顧客の感度も高いため、優れたプロダクトであるほど指数関数的にカスタマーが増えていくといった状況が珍しくないため、スケーラビリティのある組織を構築することが重要となります。
従来型購買モデルでは、企画力×開発力×マーケティング力を兼ね備えてヒット商品を生み出すことに関する「再現性」は必要となりますが、伸張性といった要素は必ずしも必要でないため、スケーラビリティといった要素は必須となりません。
カスタマーサクセスの推進に必要な5つの原則
1.成功を届けられるカスタマーとの末長い関係に責任をもて
「ライフタイムバリュー最大化vs.ワンタイムバリュー最大化」で記載した通り、リテンションモデルを活用してカスタマーサクセスを推進するということは、プロダクト/サービスを購買した顧客と長期的な関係を意識する必要があります。
顧客に成功を届けるためには、顧客理解や導入支援等、あらゆるフェーズでリソースが必要となる。時には、目の前の顧客が「自社のプロダクト/サービスで成功を届けられる顧客かどうか」見極めを行い、選択的なリソース投下を実施していくことが肝要です。
2.素早く・負荷なく・漏れなく成功を届けよ
顧客がプロダクト/サービスを自立的に利用できるように、迅速なオンボーディングの実施が必要です。プロダクトが提供する機能だけでは顧客の成功に結び付かないことを念頭に、顧客よりも顧客を深く理解し、時には先回りの対応を行うことで、漏れなく顧客に成功を届ける必要があります。
3.プロダクトチームとサクセスチームがベタべタに連携せよ
リテンションモデルの提供価値として重視されるのは「成功ブリッジ」や「(負荷のない)エフォートレス体験」といった要素です。この点に関して、プロダクトチームにおけるエンジニアはテクノロジーに精通し過ぎているがために、ユーザーにとっての成功ブリッジやエフォートレス体験を正しく捉えることが難しい状態にあります。
一方で、サクセスチームはそれらを正しく認識している一方で改善する為の技術を持っていないケースが殆どです。その為、両者が密に連携することが、顧客にとって最適な体験を提供する近道となります。
4.データの統合・分析に投資し、顧客データをフル活用せよ
リテンションモデルでは、オンボーディング率とアダプション率の向上が成長のキーとなります。その為、顧客が直面する課題が事前にわかっていれば、それを避けるように仕向けるといった施策を実施する必要があります。
そして、それを実際に行うには膨大な顧客データのフル活用して精度の高い予兆/予測モデルの製作が急務です。
その為に、カスタマーサクセスを推進する企業は統合かつ分析できる環境への積極的な投資が必要となります。
5.カスタマーの手と知恵を動かせ(そのための基盤を育む)
繰り返しになりますがリテンションモデルの成長には事業、組織ともにスケーラビリティが必要となります。
一方で、顧客の増加スピードに対して人材確保が少しでも遅れると、競合が入り込む隙間を与えてしまうという懸念があります。顧客の加速度的な増加の対策として、人材を確保するだけでなく顧客がセルフサービス(自助)で解決可能なコンテンツを豊富に用意しておくことや、ピアツーピア(互助)の関係を築くことが可能なコミュニティの形成が必要です。
まとめ
カスタマーサクセスという概念の発信地となったパブリッククラウドサービス自体も、書籍が執筆された当時の予想を大きく上回って成長を続けており、今後もカスタマーサクセスという概念は企業活動の中心となるでしょう。
書籍では、リクルートやSanSan、メルカリといった企業の具体的な事例が掲載されているのでぜひこの機会に一読することをお勧めします。また、事例に掲載されている企業は、現時点においても飛躍的な成長を続けている企業ばかりですので、掲載後の取り組みを試しに調査してみることがBtoB/BtoCのプロダクト/サービスが目指している今後の方向性の理解にも役立つと考えます。
Profile
- 窪田 聡史
- この記事は窪田 聡史が執筆・編集しました。
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