2023.02.13

【書評】小が大を超えるマーケティングの法則

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【書評】小が大を超えるマーケティングの法則

普段の生活において、私達は様々な商品やサービスをリアルやネットで購入する機会があるため、BtoCマーケティングというと、何となく感覚でわかる人が多いのではないだろうか?

本書はそんな「何となくの感覚」について、大学教授である著者が消費者リサーチやデータに基づきマーケティング戦略を解説している。巷には様々なマーケティング本が溢れているが、本書は著者の感覚ではなく、データ分析の結果からtoC向けマーケティングを学ぶことができるので大変参考になる書籍である。そのため、中小企業のマーケティング担当者だけではなく、大企業のtoC向けマーケティング担当者にもぜひ読んでいただきたい。

【著者紹介、書籍の特徴】地域に関するマーケティングを主な研究テーマとしている著者が、消費者リサーチやデータに基づいたtoCマーケティング戦略を解説している。

著者(岩崎 邦彦)は静岡県立大学経営情報学部教授であり、専攻はマーケティング。特に、地域に関するマーケティング問題を主な研究テーマとしている。

本書の特徴は大企業と中小企業のマーケティング戦略を対比しながら解説されており、消費者リサーチの分析結果が図解で示されているので、大変読みやすく分かりやすい内容となっている。

出版社:日本経済新聞出版
発売日:2012/2/25
著者:岩崎 邦彦

【目次と要旨】

本書では、印象的なキーワードが多用されているので記憶にも残りやすい。下記は本書において重要なキーワードの例である。

「全国」から「地域」へ、「総合」から「専門」へ、「画一性」から「個性」へ、「量」から「質」へ、「無難」から「本物」へ、「効率性」から「感性」へ。

以下、各章ごとに要旨をまとめた。

第1章 マーケティング的発想 ──Marketing Mind}
・化粧品を購入する顧客は、化粧品という物質ではなく、化粧品がもたらす美しさという価値を買っている
→マーケティングとは、顧客がスタートポイントであり、どうしたら顧客が商品を買いたくなるのかを考えることが大切

第2章 小さいことは、いいことだ ── Small is Better
・中小企業の強みは、個性である。サービス、独自性、専門性、こだわりを追求し、それを消費者に伝えることができれば、大企業より優位に立つことができる
→大は小を兼ねない。大きな店の強みは品揃えの豊富さである。小さな店+個性=満足

第3章 「小さな店にひかれる人々」を狙え ── Targeting
・小さな店にひかれる人々の5つの特性
1.本物志向・・個性、こだわり、専門性を重視する。
2.人的コミュニケーション志向・・店員からのアドバイスやコミュニケーション、店員の親しみやすさを重視する
3.関係性志向・・買い物はここと決めている、気に入った店を長く使い続ける、つまり絆を重視する
4.地元志向・・家の近くで買い物をしたい、歩いていける範囲で
5.低価格志向ではない・・・安さや安売り、バーゲンセールを重視しない

第4章 「ほんもの力(A)」を高める ── Authenticity
・消費者に選ばれるためにはシンボルが欠かせない
→シンガポールにはシンボルがあり、マレーシアにはないため、旅行者という消費者に選ばれない。実際に旅行客数のデータが証明している。小さな企業においても同様である。

第5章 「きずな力(B)」を高める ── Bond
・小さな企業のマーケティングの基本的な方向性は、小規模を逆手にとって顧客との関係を深化させ、顧客一人一人との絆を強くしていくこと
→顧客数重視から関係性重視へ。たくさんの顧客ではなく、良い顧客に繰り返し買ってもらう、という発想の転換が求められる

第6章 「コミュニケーション力(C)」を高める ── Communication
・販売員からアドバイザーへ
→ドラッカーの言葉「店員は、客が知らない深い商品知識を提供しなければならない。目の前にある商品を勧めるだけの店員は必要ない」

第7章 小規模を「チカラ」に変えるために
・マーケティング成果=意識(やる気)×行動(やり方)×継続

【感想】大企業がファンを獲得するためのマーケティング戦略にも活かすことができる

感想(①参考になった点、②良かった点、③読むのがおススメな人、④納得出来なかった点・理由、⑤為になったこと、⑥書籍の活用方法など)

本書は大企業と中小企業におけるマーケティング戦略の違いを対比させて解説するというテーマだが、実際には紹介されている戦略は中小企業だけでなく大企業においても有用である。たとえば第6章に記載されている内容は「ただ商品を勧めるだけではなく、顧客に深い商品知識を提供すること」の必要性だが、この戦略は大企業においては、各店舗ごとに顧客以上に商品も含めた周辺知識に詳しいスタッフを常駐させる等の応用ができる。

上記の内容を実際に応用した例は上新電機である。

ジョーシン、売上高8割をオタクがつくる 売りは趣味性

https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUF054HQ0V01C22A2000000/

いまや中小企業だけでなく、大企業も競合と差別化するために「個性、こだわり、専門性」で顧客を創造する必要がある時代となった。上新電機の事例では、オタクに特化した売り場のある店舗を構えることでファン作りを進め、ファンが趣味商品だけではなく、家電も購入するお得意様となっている。また、第6章の要旨に掲載したように、来店客の玄人な質問にも対応できるようなアドバイザーの存在もファンから支持される理由の1つという。

家電製品などの「モノ」だけなら自宅でスマホを操作するだけで注文できるが、店舗での商品検討や接客などの「コト」は売り場でなければ体験はできない。 このように、日経新聞で取り上げられるほどの成功事例を、本書では消費者リサーチやデータに基づいたtoCマーケティング戦略として学ぶことができる。

まとめ

消費者は商品やサービスに対し「個性」「質」「本物」などの要素を求めているのではないだろうか。上新電機の事例のように、消費者は自宅やネットではできないような体験にこそ価値を感じている。

大企業と中小企業におけるマーケティング戦略を対比して筆者は描いているが、顧客のニーズに応えるという大元に立ち返れば、本来は大企業と中小企業のマーケティング戦略に差はあるべきではない。SDGsなど従来のような大量生産・大量消費の価値観が否定されつつある現代において、本書に書かれているようなマーケティング戦略はむしろ大企業においてこそ有用であると言える。

かつてはコスト面などの課題で大企業において本書に記載されているようなマーケティング戦略を採用することは困難であったが、現在ではデジタル技術の適切な活用によって現実的なコストで消費者のニーズに応えるマーケティングも実現が可能になっている(例:顧客体験価値の提供として、ニトリやレクサス等が導入しているバーチャルショールームなど)。

類書と比べてデータに基づいた解説は大変説得力があるので、toC向けマーケティングの重要ポイントを学びたい人に向けて本書をおすすめしたい。

マガジン編集部
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この記事はマガジン編集部が執筆・編集しました。

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